2018年11月のスウェーデンOPで、中国の主力選手を3連続撃破した伊藤美誠選手。その強さの特徴を解説していきます。
伊藤美誠選手は、従来の卓球を覆すようなプレイスタイルを身に着けていました。
伊藤美誠 強さの特徴「卓球のセオリーに反するプレイスタイル」
引用元:Twitter
①圧倒的な回転量のドライブ
伊藤美誠選手の強さの特徴は、バックハンドでのドライブ(上回転)にあります。ただのドライブではなく、トッププレイヤーの想定を軽く超えていく圧倒的な回転量を誇っています。
2018年に開催された全日本卓球選手権で対戦した石川佳純選手、平野美宇選手ともに、伊藤美誠選手のバックハンドドライブの回転を抑えきれずにオーバーミスするという場面がいくつもありました。
想定しているよりも回転量が多いため、回転に負けて打ち上げてしまう。台に入ったとしても、ボールが浮ついているのでスマッシュで決められてしまう。そんなシチュエーションが多かったように感じました。
石川佳純選手も平野美宇選手も世界を舞台に戦っているトッププレイヤーです。経験上、相手の回転量を見極めることには長けています。ですが、伊藤美誠選手のドライブは、その経験値を凌駕しています。
伊藤美誠選手のバックハンドドライブは、攻撃の起点であり強さの大きな特徴の一つとなっています。
さらに驚きなのは、伊藤美誠選手は回転のかけにくい表ソフトラバーでバックハンドドライブを打っているということ。
②回転のかけにくい表ソフトラバーで、強引に回転をかける
伊藤美誠選手のバック面のラバーは、「モリストSP」。表ソフトラバーです。主流の裏ソフトとは違い、突起が表面に出ているラバーですね。
表ソフトラバーの特徴は、「回転の影響を受けにくい」こと。突起が出ているため、相手の打球の回転の影響も受けにくいラバーです。
回転の影響を受けにくい表ソフトラバーのメリットは、回転の読めないサーブを返しやすいことが挙げられます。伊藤美誠選手も、フォア側のボールも回り込んでバックハンドで返したりいていますね。
ただ「回転の影響を受けにくい」ということは、逆に言えば自分でも回転をかけにくいということです。
伊藤美誠選手がすごいのは、そんな裏ソフトラバーで世界のトップランカーも想定できないような回転をかけることができるという点。卓球のセオリーを覆すような力技です。この強引さが、伊藤美誠選手の強さの特徴だといえます。
普通の人では、真似できないスタイルです。
レシーブをする時には、相手のサーブの回転を見極めないと返球することが出来ません。そして、攻撃の要となるドライブは、上回転をかけることで成立します。
そのため、回転のかけやすい裏ソフトラバーは初心者からプロまで浸透しているんですね。私が卓球部だった頃も裏ソフトラバーを使っていました。
③必殺技「みまパンチ」とは?
伊藤美誠選手の最大の特徴ともいえるのが、必殺技「みまパンチ」。簡単に言うと、スマッシュ(無回転)です。ですが、普通のスマッシュとは違う特徴があります。
一般のスマッシュは、右腰をひねってテークバックをとって打ちます。ラケットを振った後は敬礼のようになります。
みまパンチは、テークバックで腰をひねらずに落とします。球の上がりばなを叩きます。振った後は相撲のツッパリのように押し出す形になります。振るというよりも、押すイメージですね。このイメージから、伊藤美誠選手自ら「みまパンチ」と名付けました。
バックドライブで相手の形成を崩して、変則フォアハンドのみまパンチを連発。このスタイルで世界のトップランカーを打ち崩してきました。
朝日新聞社の取材では、みまパンチについて以下のようにコメントされています。
なんでも入る打ち方ができたら一番最高じゃないかと思いましたし、やっぱりそうやって打ちたくても、ボール的に打てない時があるので。
崩されても返せる
崩しても返せるってことを一番にしたいなって思います
引用元:朝日新聞デジタル
④卓球のセオリーから逸脱したプレイスタイル
「圧倒的な回転量を誇るバックハンドドライブ」「無回転で叩き落とすみまパンチ(フォアスマッシュ)」。この二つが伊藤美誠選手の強さの特徴だといえます。
この二つを武器に、中国選手をはじめとしたトップランカーを翻弄し、撃破しています。なぜここまでトップランカーが翻弄されてしまうのか。その理由は、「卓球のセオリーから逸脱しているから」。
伊藤美誠選手は、回転のかけにくい表ソフトラバーでバックハンドドライブ(上回転)を打ち、そして回転をかけやすい裏ソフトラバーでみまパンチ(無回転)を打っています。
卓球のセオリーとは逆をいくプレイスタイル。これまでの卓球選手にはない独創的なプレイスタイルだといえます。そのため、対戦相手は伊藤美誠選手のプレイに翻弄されて、対応する前に倒されてしまうのです。
歴戦のどの選手とも違う強さを持つ伊藤美誠選手。そのプレイスタイルは、まだ研究されつくされてはいません。未知の可能性を秘めた選手だということができそうです。
⑤メンタルが最強
伊藤美誠選手といえば、逆転勝利の試合を思い出す人も多いと思います。どんな点差が開いていても、試合をひっくり返す強い精神力を持っています。
誰に何を言われようと私は私。
自分は自分。
私らしく正々堂々と戦うだけ。
本気で何かと闘ってる人はそんな簡単に自分に負けたりしない。
何を言われても、何をされても実力がある人が勝つ。
私はその実力を求めて毎日頑張る。と改めて思えた今日。— 伊藤 美誠 Mima Ito (@MSLpN5xiejmc2Ho) 2018年3月10日
上記は、伊藤美誠選手自身のツイートです。トップ画面に固定していることからも、意識的に強く保とうとしていることが伝わってきます。
元から強かったのではなく、意識的に高めていこうとしている印象。その向上心が強さの秘訣なのかもしれません。
スタイルチェンジで強さを身に着けた
引用元:Twitter
伊藤美誠選手の強さの特徴を紹介してきました。その強さで、世界のトップランカーを相手に戦い続けています。
2016年のリオ五輪で女子団体として銅メダル獲得。2017年ITTFワールドツアーグランドファイナル女子ダブルスで銀メダル獲得。そして、2018年には劉詩文、丁寧、朱雨玲という中国の主力選手を連続で撃破。スウェーデンOPで優勝しています。
なぜここまで強さを持つに至ったのか。その理由は、大胆なスタイルチェンジにあります。
省エネ卓球から、動く卓球に変えた
2016年にリオ五輪に出場して女子団体で銅メダルを獲得した伊藤美誠選手。その翌年の2017年はプレッシャーに苦しんだそうです。
私の持ち味は楽しんでプレーすることなのに、全く卓球を楽しめなくなって……。オリンピックのメダリストにふさわしい成績を残さなければ、という思いが強すぎたみたいで、いくら練習しても試合で勝てなくなりました。
引用元:sports navi
結果の出ない苦しい1年間の中、伊藤美誠選手は「自分は変わらなければならない」と本気で思ったそうです。変わるために取り組んだのは、基礎練習だったといいます。
私のプレースタイルは「前陣速攻型」といって、卓球台からあまり距離を取らず速いピッチで連打するスタイルなので、あまり足を動かさない「省エネ卓球」とも言われてきました。
自分でもその自覚はあったんですけれど、プレーの幅も質も高めるにはもっと足を使って「動く卓球」をしていかなければならないと考え、最近はやっていなかったフットワーク練習などの基礎練習を徹底的にやりました。
引用元:sports navi
試合形式を好み、基礎練習に時間を割いてこなかったという伊藤美誠選手。基礎練習でフィジカルを鍛えることによって、省エネ卓球から動く卓球へとスタイルを変化させていきました。
相手のミスを誘うプレーではなく、自ら得点をもぎとりに行く攻撃的なスタイルへと変化しました。
そして、2018年にはライバルの平野美宇選手の上をいく強さを身に着けました。伊藤美誠選手の強さは、苦悩の末に手に入れたものだったんですね。
中国の研究の上をいく進化
対戦相手の過去データを徹底的に研究して攻略していく中国の卓球選手。この手法で何人もの日本人選手が攻略されてきました。ですが、伊藤美誠選手の大胆なスタイルチェンジに中国の研究はまだ追いついていないようです。
スタイルチェンジには時間もリスクもかかります。伊藤美誠選手はリスクをとってスタイルチェンジをしたからこそ、現在の強さを身に着けました。
伊藤美誠選手の進化に対して、ライバルの平野美宇は「驚いた」「精神的ダメージがあった」とコメントしています。
現在は圧倒的な強さを誇る伊藤美誠選手ですが、今後はどうなるか分かりません。中国の研究も進んでいるし、平野美宇選手もさらに強くなるはずです。確実に言えるのは、世界の卓球のレベルが上がっていくということだけです。
伊藤美誠選手の強さの分かる試合動画まとめ
VS劉詩ブン(2018年スウェーデンOP準々決勝)
VS丁寧(2018年スウェーデンOP準決勝)
VS朱雨玲(2018年スウェーデンOP決勝)
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